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熱力学データベース MALT Omega / Basic
CHD - 化学ポテンシャル図
gem - 多元系化学平衡計算


MALTの目的
データの詳細


著作:MALT グループ
「熱力学データベースMALT の構築に携わって」
 Netsu Sokutei 34(1)2007
販売:株式会社 科学技術社

MALT Omega 熱力学データベース
MALT Basic 熱力学データベース
 ・Omega/Basic 収録化合物
CHD - 化学ポテンシャル図
 ・化学ポテンシャル図とは何か?
 ・プールベ線図は如何に構築されるか?
 ・CHD 作図例
gem - 多元系化学平衡計算
 ・高度な使い方
 ・gem 計算例
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2003年より販売しておりましたMALTグループ開発によるMALT for Windowsは、さまざまな研究分野、産業分野でご利用いただいてきましたが、
2025年より大幅なアップグレード版(Omega)と改訂普及版(Basic)の2版をリリース・販売しております。

MALT Omegaは従来より収録化合物が飛躍的に増え、さらに水溶液種も含んでいます。--->収録化合物リスト(7890種)
MALT Basicは従来と同じ化合物(上記化合物リストのNewを除く:4930種)ですが、一部データの改訂がなされています。--->更新化合物のリスト
どちらのバージョンもヘルプ(オンラインヘルプとローカルヘルプ)が充実していて、一貫して読むこともオンデマンドで読むことも出来るhtml形式です。

化学ポテンシャル図作成プログラム(CHD)、多元系平衡計算プログラム(gem)はOmegaにもBasicにも共通で含まれており、水溶液にも対応しています。
たとえば、Omega版ではプールべ線図をCHDにより描くことができます。CHDの作図例
また、Omega版ではgemにより気体、水溶液、凝縮相を含む系の平衡計算を行うことが出来ます。gemの計算例


化学熱力学データの収録
エンタルピー変化
生成ギブズエネルギー変化
298.15度のエントロピー
比熱
相転移におけるエンタルピー変化

MALT の目的は
  1. 熱力学解析を必要としている人に高品質の熱力学データを供給すること
  2. 材料科学、新プロセス開発などに関連した研究開発での熱力学の利用を促進することにあります。

この目的を実現するために次のことができます。

  1. 化合物系の熱力学データの準備
  2. 化学反応式に基づいた解析
  3. ギブズエネルギー最小化法による解析
  4. 化学ポテンシャル図構築による解析
  5. MALTダイレクト-ユーザープログラム

(1) 化合物系の熱力学データの準備

MALTデータベースは多くの化合物、化学種のデータを格納しています。それでも、詳細な解析には十分とはいえません。
このため、ユーザーがMALTデータベースに格納されているデータの信頼性、集積度を調べ、他の入手可能なデータと比較し、最後に当該化合物におけるベストな組み合わせを得ることが必要とされます。
この目的には、複数の化合物の熱力学関数の間での整合性を検討する良いツールが必要となります。この意味からしても、当該化合物の関与する平衡を吟味するために、先進的なソフトを利用することが推奨されます。

(2) 化学反応式に基づいた解析

これは最も基本的な熱力学解析の一つです。非常に単純な操作ですが、材料科学、化学プロセス解析など多くの分野で極めて重要な操作となっています。
化合物の熱力学表は標準的な交換関数(熱容量、エントロピー、相対エンタルピー、ギブズエネルギー関数、生成エンタルピー変化、生成ギブズエネルギー変化を温度毎に表示します。 化学反応に伴う熱力学量変化を同じく温度毎に表示します。

gem あるいは CHD の計算結果を、抽出された化学反応式に対して詳細に再検討することによって、物理化学的観点より更に明瞭となります。
特に、酸化還元反応あるいは酸・塩基関係に関連した特性を化学反応の奥に認めることができます。このことによって、生起した現象あるいは観測された事実と物理化学的特徴との相関を導くこともできます。

(3) ギブズエネルギー最小化法による解析

MALTアプリケーションソフトの一つ、多元系化学平衡計算プログラムgemはギブズエネルギー最小化法に基礎をおいている。

温度、圧力、反応物の初期量を指定する、対応する平衡時の各化学種の量並びに化学ポテンシャル値が与えられる。この手法はとりわけ複数の化学反応が同時進行するような多元系では便利である。 圧力一定下でのギブズエネルギー最小化あるいは体積一定下でのヘルムホルツエネルギー最小化を一連の計算として行うことができる。
特に後者では、一定の化学ポテンシャル値で特徴付けられる条件下での系についての計算を行うことができる。例えば、空気中での平衡は、多くの工業的なプロセスで重要である。 酸素ポテンシャルの関数として与えられる平衡はまた、高温形燃料電池で重要である。

一連の計算では、反応物のモル数を前回の計算結果から決めることもできる。ガス流通下の反応で、ガス中に反応性の高い不純物を含んでいた場合の反応の時間変化なども計算することができる。 長い円筒形の反応器では、円筒内の物質の変化を、ある地点でその点での物質と反応し平衡に達したガスが、次の地点まで輸送されてその点での物質と反応し次の平衡に達するという仮定をおいて評価することができる。

材料科学や化学プロセスの現実的な状況に関する熱力学的解析には強力なツールとなっている。特定した条件下で唯一の回答を与えるので、結果は非常に理解しやすく他の考察に容易に適用できる。 従って、熱力学的考察にはソフトgem を使いこなすことができるのが重要となる。前述したように、このソフトから出力される膨大な結果から重要な化学反応式を抽出することも重要であろう。 該当する材料や化学プロセスで生起している現象を物理化学的に理解するのに役立つであろう。

Omega版における gem での水溶液取扱法の要点は以下の通りです。

  1. 既定の取り扱い
    • 水溶液化学種を含んだ系では、H2O(l)を溶媒とし水溶液化学種を溶質とする理想水溶液混合物モデルで取り扱われる。
  2. 水溶液化学種の活量指定
    • 水溶液化学種の活量を指定するコマンドを用意し、理想気体の各蒸気化学種の分圧を指定する方法と同様に、水溶液化学種の活量を固定するコマンドを用意した。H+イオンの活量固定を用いて、pHの固定ができることになった。
  3. 制限
    • 各化学種の有効温度範囲を超えているかを表示する機能を新たに設けた。特にこの機能は高温熱容量を持たない水溶液化学種に関しては重要である。

なおOmega版、Basic版ともに、初期設定をテキストファイル形式にして、出力もテキストファイル形式とするバッチ処理を可能としました。

(4) 化学ポテンシャル図構築による解析  詳細は「化学ポテンシャル図とは何か?」を参照してください。

化学ポテンシャル図はギブズ相律によって構築される。温度・圧力一定下での3元系では、三相共存状態は自由度はゼロとなるため、すべての元素ポテンシャルが一意的に決まり、その結果すべての化合物の化学ポテンシャルも一意的に決まる。 この状態が化学ポテンシャル図の一点に対応する。この平衡点から3本の2相共存線がでている。このような幾何学的特徴を2座標変数で示される化学ポテンシャル図上にプロットすると化学ポテンシャル図を構成することができる。 通常、これらの座標変数は環境がコントロールする性質(温度、圧力、log p(O2), log p(CO2)など)から選ばれる。ただし、更に一般的な変数を選ぶこともできる。これがいわゆる一般化された化学ポテンシャル図である。

CHDは一般化された化学ポテンシャル図を多角形アルゴリズムを用いて構築する強力なツールです。更に、プロファイル図を構築することもでき、化学ポテンシャルで定められた線上に沿った気相化学種の分圧あるいは水溶液化学種の活量をプロットできます。

プールベ線図は最近のヴァージョンアップ作業と新たに用意されました。プールベ線図を描くためには、いくつかの特別な取り扱いをする必要あるので、CHDでは既定値の設定を広い範囲で行いました。 例えば、水溶液化学種の熱力学データの入手は298.15Kが最も充実しているので、初期温度設定は常に298.15Kとした。H2O(l)の活量は1に固定し、座標の変数は pH と E/V を既定値にした。 O-H-X-M 系のような多元系では、元素Mが元素XよりもNBS順で大きな値であれば、元素Mをターゲット元素として選定している。
<O,H,S,Fe><O,H,P,Fe>系では元素Feがターゲットに選ばれ、<O,H,Fe,Ti><O,H,Fe,Na>系では元素Feはターゲットとして選ばれない。

Omega版CHD での水溶液取扱法の要点は以下の通りです。

  1. プールベ線図に関する既定値設定
    • 水溶液系の化学ポテンシャル図としては、Pourbaix線図がよく知られており、よく利用されていることから、デフォルトの設定としてPourbaix線図を描画することを優先した。このためいくつかのデフォルト値の設定とその変更を図として確認できるように設計されている。
    • ただし、水溶液系ではないと判断されると、通常のCHDの機能が作動するようにしてある。
  2. 典型図、相安定図、プロファイル線図
    • 通常、Pourbaix線図として知られる図にはいくつかの異なる図が用いられている。最も良く利用されるのは、固相などと水溶液化学種との平衡関係をpHと電位(あるいはpHと同等のpE)で構成される座標上にプロットされるものである。考察対象とする元素(酸素、水素以外)がこの座標でどのような安定な化学種として存在するかを示している。
    • 固相など水溶液以外の相を対象外としてどの水溶液化学種が安定になるかを示す図は、Predominance area diagram(相安定図)と呼ばれる。
    • また、複数の化学種から構成される混合物を取り扱うことになるので、横軸に選んだ変数に対してどのように各化学種の濃度あるいは化学ポテンシャルが変化するかを示すプロファイル図も良く使われる。
  3. 多元系プールベ線図
    • 多元系のプールベ線図も構築可能である。一般化学ポテンシャル図の戦略的な手法を採用し、更にFeやS等の二つの元素が対象となる安定線図を描画する時に採用される手法に則っている。通常、鉄を含んだ化合物あるいは化学種の安定域が可視化されます。
    • 一般化された化学ポテンシャル図では、鉄を含まない化合物あるいは化学種を透明化する手段を採用すれば同等のことが実現できます。この透明化/非透明化の操作は、自動的にも、手動で行うこともできます。

(5) MALTダイレクト-ユーザープログラム

MALTでは、ユーザーが独自の課題を解決するために自分自身でプログラムを書くことを推奨しています。このため、Delphiで書かれたいくつかのサンプルプログラムを提供し、MALTが提供している熱力学データを取り扱うための手続きなどを示しています。 MALTのデータをユーザープログラムに転送するために特別な機能”MALTダイレクト”を用意しています。
MALT関連ソフトであるgemCHD でも同じMALT ダイレクト 機能を用いて、必要なデータをMALTシステムから受け取っています。


データの詳細

考慮する事項:

  • 熱力学データと状態図情報との整合性をとるのが困難なもの。あるいは熱力学データの取得時に速度論的効果の影響があることが疑われるもの。
  • 熱力学データの確定にあたり、厳しい議論が生じている化合物で、特にコメントをする必要のあるもの。
  • ペロブスカイト化合物と関連する RuddlesenーPopper相のようにその挙動についての特別な記述を必要とするもの。
  • 化合物データの有用性を高めるために行った気相化学種、水溶液化学種の高温熱容量の取り扱いについての説明。

焦点を当てた化合物/性質

  1. ペロブスカイト化合物関連Ruddlesen-Popper相
    • ペロブスカイト構造あるいは関連するRuddlesen-Popper構造の複合化合物は同一の化合物群の中で広範囲の固溶体の形成を示す。
    • このためこのような化合物群を理想会合体溶液モデルで取り扱うのが魅力的になります。このため、化学式として A3B2O7 の代わりにA1.5BO3.5を、A4B3O10の代わりにAB0.75O2.5 を採用することとした。
    • 理想会合体溶液モデルでは混合エントロピーが一つの分子(溶液の仮想的な構成成分)中の原子の数に大きく依存するからです。

  2. La2Zr2O7 について
      1990年代初めに熱力学的な評価を行った後、La2Zr2O7の熱力学データについての研究が行われてきたが、それにもかかわらず変更を行わなかった。詳細な報告を行った。

  3. NaSiConおよびNa-Zr-Si-P-O 系の関連化合物
      Nasiconの旧データは文献162の電気化学的研究成果を元にしていた。新らたに熱測定並びに沿う関係の研究が広範に行われたので、相関係と整合性のある熱力学データを評価する試みを行った。

  4. Li-Mn-O 系
    • この系はリチウムバッテリーの技術分野で有名である。材料の挙動並びに電気化学的な挙動は室温付近で詳しく検討されている。他方で、高温挙動も良く検討されている。関連する情報の間でやや整合性に欠けることも見いだされる。今回採用されている熱力学データは、室温の電気化学的特性は必ずしも化合物間の最安定な挙動と整合しないという理解の元で導出された。

  5. Li-Fe-P-O 系
      この系も同じくリチウム電池技術では重要な系である。材料化学の中でどのように熱力学を用いていくかに関して新たな特徴が現れている。第一原理による計算のより深い利用である。Li-Fe-P-O 系では、系統的な方法論が採用され多元系の相安定性を明らかにしようとしている。 このような多元系では実験的な検討は高温における相平衡を明らかにすることに注がれているが、熱量計による検討はまれであり、決して系統的であるとはいえない。 この意味で、この系は、どのように実験的な努力とのその結果の情報と理論的なものとを調和的に用いていくかの重要な例を提示している。 CHDマニュアルの作図例9a、9bで部分的にその一端を示した。

  6. 水溶液化学種の高温熱容量
      近年、地質学に関連した水溶液化学種の熱容量がMALTが採用している式とは整合性のない熱容量式で評価されるようになった。これらの報告されている係数をどのようにMALTとの熱容量式に変換するかを述べる。

  7. 気相化学種の高温熱容量
      多くの気相化学種の熱力学データが高温質量分析計を用いて決められている。ただし、多くの場合 298 K あるいは 0 Kでのエンタルピーの値しか報告されていない。簡単な考察で、推算値を得るを試みた。

  8. 高温合金
      MALTデータベースではごく限られた数の合金しか収録していない。MALTでは非理想溶液のデータは扱わず金属間化合物のみ格納するという方針を採用していためである。対象となる合金固溶体の安定性を大まかに提供するために、特定の組成の合金を採用することをしている。

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